先日、高橋奈七永選手が変形性足関節症による無期限の休止を発表されました。
筆者が覚えている限りでは、高橋奈七永選手は全日本女子プロレス時代に前十字靭帯損傷、スターダム時代に足関節の手術を行っています。
変形性足関節症の患者さんに関わったことはありますが、手術をした方のリハビリにはあまり携わったことがありません。
というのも、この疾患で手術に至る患者さんは珍しく、専門病院でないと手術が出来る医師がいないからです。
今回は変形性足関節症について、筆者の勤めている整形外科医の意見を交えつつ取り上げたいと思います。
一般的に足関節(狭義の足関節)とは距腿関節を指し、脛骨と腓骨で作られる果間関節窩と距骨滑車の関節面で構成されています。果間関節窩と距骨滑車は「ほぞ穴」と「ほぞ」の関係にあります。
足関節を構成する靭帯は、内側では脛骨内果には三角靭帯が付着し、外側では前距腓靭帯・踵腓靭帯・後距腓靭帯があります。(この辺りは別の選手を取り上げた際に詳しく書きたいと思います)
このように足関節は、骨性の構造に加えて靭帯による補強効果もあって強固に安定した関節となっており、距腿関節以外の隣接した関節での負荷の分散・軽減の機能もあるので、股関節や膝関節に比べて変形が少ない関節となっています。
ただし、足関節を構成する部分を骨折して整復が不十分であったり、捻挫などで靭帯損傷があった場合に大きな不安定性が残存すると、変形性足関節症に移行する場合があります。
変形が進行すると関節の隙間がなくなり骨と骨がぶつかることで、足に体重を掛ける動作全般で痛みが出るようになります。自然に治癒することはありません。
他には関節リウマチ、化膿性関節炎などの炎症性疾患、距骨の骨壊死といった疾患でも、続発して起こる場合があります。
高橋奈七永選手の場合は、長いプロレス人生における怪我に伴う変形性関節症なのだと思われます。
保存療法として足部の安定性に関わるトレーニング、インソールの使用などが挙げられますが、保存療法で対応出来なくなった場合は手術が適応となります。手術方法は概ね3つに分けられます。
①下位脛骨骨切り術
②足関節固定術
③人工足関節置換術
これらの手術方法には長所と短所があり、軟骨損傷や変形の程度、年齢・活動性などの要素を考慮して、手術方法を決定します。
まず①や②が選択される場合が多いのですが、近年では人工関節の治療成績が上がっているので、第一選択で③になる場合もあります。
高橋奈七永選手は2015年の段階で足関節の簡単な手術をしたとのことですが、これがどの術式を指しているのかは分かりません。
勤務先の形外科医から下記の話を聞きました。
・手術をしても靭帯は残せるが、強度が落ちて緩くなる。また足関節は股関節・膝関節に比べて関節内の接触面積が少ないので、手術をした場合はランニング程度の衝撃でも関節への負担が大きくなる。スポーツへの復帰可否は競技の種類による。
・人工足関節の置換術は国内でも手術件数が少なく、一般の整形外科医は経験していない場合が多いので、大学病院レベルの足関節の専門医が担当することが多い手術方法となっている。
近年の試合では変形性足関節症の影響かロープワークがぎこちないのが気になっていました。このため、グラウンドの攻防によるインサイドワーク多めで試合を進行していた印象です。それでもしっかりパワーファイトも見せていたのは流石だと思いました。
プロレスのような激しい動きが行われる競技への復帰は、本人のツイートにもありましたがハッキリと復帰出来ます!と断言出来るものではありません。
私が強い女性に憧れを持ったきっかけは、小学生の頃に見た全日本女子プロレス時代の高橋奈苗選手です。どのような形でリングに復帰するかは分かりませんが、待ち続けたいと思います。
笑顔が素敵!