• リハビリ専門職の目線でプロレスを語ります

2.20で新日本プロレスの中西学選手が引退しました。特にきっかけとなったのは、2011.6.4で当時現役だった井上亘選手からジャーマンスープレックスを受けた際に受傷した「中心性脊髄損傷」という怪我です。

公式サイトに記事が残っていました。

https://www.njpw.co.jp/40246

当時のリハビリ風景も動画で残っていました。

引用:新日プロレス株式会社 YouTubeチャンネルより

この数年後に本間選手も同じ怪我で欠場しています。

今回はこの中心性脊髄損傷について取り上げたいと思います。

脊髄神経について説明します

まず頸椎についての説明です。頸椎は7つの骨で構成されています。脊柱の中で最も可動性が高く、上下左右など様々な方向に動かすことが出来ます。

この脊柱の中心にある脊柱管の中に脊髄神経が走っています。

脊髄神経を拡大すると、下記の図のようになります。

脊髄神経の断面図

脊髄は灰白質と白質に分けられます。灰白質は神経細胞が集まっている部分で、白質は神経線維が集積して縦に走行している部分になります。

白質が灰白質を取り囲む構造になっており、中心性脊髄損傷では、中心部である灰白質に大きなダメージが残りやすいです。灰白質の方が白質よりも強度が弱く、血管も豊富に通っているので、出血しやすい構造になっています。

脊髄の中心部が出血すると、出血箇所は壊死するのでダメージが残り、水が溜まります。(=浮腫)

浮腫は出血箇所よりも外側に生じるので、白質を通る神経線維を圧迫してしまいます。浮腫は時間の経過と共に徐々に落ち着いてくるため、浮腫が生じた箇所は回復の可能性があります。

なお、上肢・下肢の神経は白質を縦断する様に走行していますが、上肢の神経は白質の内側、下肢の神経は白質の外側を通ります。

中心性脊髄損傷は特に内側のダメージが大きいので、下肢の神経よりも上肢の神経の方が大きなダメージを受けやすいです。特に、手の指の神経はダメージが残りやすい怪我になっています

中心性脊髄損傷は何故起こるのか

中心性脊髄損傷は教科書的には、高齢者が転倒しておでこを打撲した際に、頸椎が過伸展することで損傷することが多い疾患です。

この疾患は以下のような特徴があります。

・頸椎の過屈曲or過伸展で生じることが多い。

・レントゲン撮影では骨の異常が見当たらない。

・変形性頸椎症がある人に多く起きる。

・損傷後の麻痺の回復に特徴があり、下肢から回復が始まり、自分で排尿が可能になる。その後は上肢も回復してくるが、手の指に痺れや運動障害が生じる場合が多い。

中西選手の場合は動画を見ると、投げっぱなしジャーマンを受ける際に思ったよりも滞空時間が長かったためか、受け身のタイミングがずれた様に見えます。このため、技を受けた際に頸部が過度に屈曲してしまい、脊髄にダメージを受けたのだと思います。

引用:新日プロレス株式会社 YouTubeチャンネルより

図で示すと以下のような機序になります。

脊椎を絵で表してみました。今回の場合は頸椎を想定しています。椎体や棘突起は骨なので、当然ながら硬くなっています。脊髄は神経なので柔らかくなっています。

投げっぱなしジャーマンを受け損なったことで、頸椎に対して後方から強い外力が加わります。この時に椎間板が損傷するので、椎間が開き脊椎が上に持ち上がります。

そのまま後方に回転していくことで、首が更に過度に曲がります。この時に、脊髄が極端に引き伸ばされるストレスが掛かります。

この時の脊髄の損傷の程度によっては、ハヤブサ選手や高山善廣選手の様な脊髄損傷になることもあります。

通常の姿勢に戻ることで脊椎が元の位置に戻ります。しかし、脊髄へのダメージは残ったままになります。

治療はその時の状態によって、保存療法か手術療法が選択されます。手術といっても神経を縫い合わせることは出来ないため、結局は怪我の程度や本人の回復力によるところが大きいです。

中西選手の場合は首の後方に手術の跡があるのを確認しました。元々、変形性頸椎症があったのかもしれませんし、投げっぱなしジャーマンを受けた際に頸椎を骨折したのかもしれません。

引用:新日本プロレス株式会社 YouTubeチャンネルより

プロレスラーは本当に凄い

筆者は中心性脊髄損傷の患者さんのリハビリに携わった経験がありますが、先に記した様に上肢の機能障害が残りやすい疾患なので、スポーツ復帰まで回復したという人をほとんど見たことがありません。日常生活を送るのも精一杯という患者さんもいます。

本間選手も含め、プロレスに復帰するまでに回復するというのは、我々の想像を絶する努力があったと思います。

近年では展開の速い現在の新日本の試合に付いていけず、ロープワークもおぼつかない状態でした。それでも去年のワールドタッグリーグをこなしたのは流石でした。

2.21ではバッドラック・ファレをアルゼンチンバックブリーカーで担いでいましたが、ボブ・サップを担いだ時を思い出して涙が出ました。個人的に、中西学こそ「ザ・レスラー」だと思っています。

引用:新日本プロレス株式会社 YouTubeチャンネルより

現役生活、本当にお疲れ様でした。