• リハビリ専門職の目線でプロレスを語ります

2月19日の岩手大会で怪我を負ってしまい、22日の後楽園ホールで「大胸筋完全断裂のためベルトを返上する」と本人から発表がありましたね。

大胸筋断裂というと、過去には大相撲での稀勢の里が同じ怪我を負い引退のきっかけとなっています。

稀勢の里の“生命線”左おっつけの威力奪った大胸筋断裂 : スポーツ報知 (hochi.news)

大胸筋の解剖

大胸筋は上半身を形成する中で最も強大な筋肉です。スポーツにおいては野球での投球動作・バッティング、ゴルフのスイング、テニスのサーブ・フォアハンドなど、特に前方へ腕を振り出すような動作に関与します。

また、日常生活では胸の前で物を抱きかかえる動作や、うつぶせ寝の状態から上半身を起こす動作などにも関与します。

大胸筋の各線維

大胸筋は大きく上部中部下部で構成されています。

大胸筋の起始停止

大胸筋の起始は3つに分かれています。

起始①:鎖骨部(上部)鎖骨内側1/2

起始②:胸肋部(中部)肋骨柄、第2~7肋軟骨前面

起始③:腹部(下部)腹直筋鞘の前葉

停止:上腕骨大結節稜

大胸筋の作用

大胸筋の運動動作は主に肩の屈曲内転内旋水平内転に作用します。

肩の屈曲

肩の内転
肩の内旋

肩の水平内転

プロレスを想定すると、ヘッドロックで相手を締める、リングで寝ている相手を引き起こす、投げ技で相手を抱える、エルボーやラリアットでのインパクトの際などに大胸筋にストレスが掛かると考えられます。

色々と挙げてみましたが、結局のところほとんどの動作が負担になります。プロレスラーの大胸筋の発達を見れば当たり前かもしれません。

大胸筋断裂とは

大胸筋断裂は比較的まれな疾患ですが、フィットネス人口の増加に伴い、ベンチプレス等で損傷する人が増えていると言われています。

臨床的にもベンチプレスやダンベルプレスでオーバートレーニングになってしまい、受傷する患者が多い印象です。

しかし「肉離れ」で済む患者が多く、「断裂」に至る患者はほとんど見たことがありません。このため、大胸筋断裂を扱っている医療関連の文献も少ないのが現状です。

大胸筋断裂の好発部位は「起始部筋腹停止部」の3つに分けられます。

起始部・筋腹の断裂は基本的に保存療法になり、停止部の断裂は手術が必要になることもあります。

岩手大会の配信がなかったので受傷機転は分かりませんが、バックステージコメントで「何てことない動作の一つで」との話をしていましたね。

vsEVIL戦での左肩の負傷が古傷になっていたり、興行が増えたことによる連戦の疲労が影響しているのかもしれません。

大胸筋断裂の復帰時期

保存療法の場合は肉離れと同様の扱いになります。1~2週間は三角巾で固定、4~6週から軽いトレーニングを始めます。

手術療法の場合、今回の発表あったように復帰までに概ね半年を想定する場合が多いです。ある文献の患者の一例ですが、2週間は固定、3週~5週で肩関節の他動的な運動が可能、5週間から制限なく関節運動が可能、8週間から抵抗運動を開始、3か月から関節の動きを伴う軽い負荷での運動が可能、5か月から制限なしで運動が可能、というスケジュールになります。※リハビリのスケジュールは患者によって異なります。

25日の後楽園ホールでベルト返上の発表の際、左腕がしっかり固定されていたため、重症度が高いことが見受けられました。

ちなみに、私の勤務する整形外科の医師に聞いたところ、「大胸筋断裂での手術例はあまり聞いたことがない」とのことでした。それほど重大な怪我だということです。

高橋ヒロムの今後

後楽園ホールでの「手術をする決断をした」という言葉を非常に重く感じました。一般人が日常生活を送るレベルではなく、あくまでプロレス復帰を目指すわけですから、リハビリは辛い戦いになるはずです。

手術をしてどの程度怪我をする前の状態に近付けるかは分かりません。もしかしたら、怪我が原因でファイトスタイルが変わるかもしれません。でもそれは退化ではなく進化だと思いたいです。

あと、本人が「表出る暇あるなら練習しろと言わないでくれ」と言ってましたが、まさにその通りです。がむしゃらな運動だけがリハビリじゃない、適切な休養もリハビリの一環です。

ということで、新日ジュニアの象徴の復帰を心待ちにしています。